2023-01-01から1年間の記事一覧

悼む

人悼むかたちに釘の凍てにけり 悼む時には頭を垂れる。釘から磔刑にも想像が及ぶ。

鳥の死と靴

鳥の死のごとく白靴干されをり 干した靴が鳥の姿と似ていると言われればそうかもしれない。空を飛ぶ鳥に人は憧れるが、空を飛べても小鳥に天敵は多い。自由と危険は隣り合わせと言うべきか。靴は人にとっての自由な行動の象徴であり、その自由の靴と死の間の…

少年少女

少年と少女の句は頻繁に登場する。「少年少女」からどの段階の子を思うかによっても、幸福かどうか印象が違いそうだ。幼い子供であれば悩みもまだ少なく、幸福の純度が高いだろう。思春期に近づくにつれて、体の成長と心の成長のずれが大きくなり、ぎこちな…

抱擁は

かはほりや抱擁はこんなかたちで 「抱擁はこんなかたちで起こる」と続くのだろうか。挨拶の抱擁なら出会う時や別れる時とタイミングが計れるかもしれない。だが、こみ上げる愛情や欲情からの抱擁に予定も筋書きもない。走り出した気持ちを体が慌てて追いかけ…

小鳥きて昼のからだをうらがへす

小鳥きて昼のからだをうらがへす 仰臥だと思う。昼寝にしては寝返りを打ったりして寝ている様子ではない。昼のからだはきっと女の体で、男が裏返したというより、女が自分で裏返ったと思う。昼はいっそう外が気になる。小鳥など来ればなお意識はそちらへ逸れ…

『一対』を読む

小西瞬夏句集『一対』〈いちまいの光と影 若森京子〉 - KAIGEN 海原 によると、集中蝶をモチーフにした作品は四十二句もあるという。 てふてふの脚より生まれかなしめり てふてふが誕生したのだろうか。蝶ならば肢、脚というからには人ととりたい。ならば、…

牡鹿声絞り出すとき舌も出し

意外な一面だ。鹿が舌を出したらほぼかわいい表情ととってしまうけれど、声を絞り出すと言えば多かれ少なかれ苦労している様子。観察した上での発見ではないかと思う。 百の草植ゑて招きぬ雨蛙

Pronounciation change in combined words IN JAPANESE 連濁

The word for paper in Japanese is 'kami'[紙]. when this follows another word 'ori' which means 'folding', the reading becomes -gami instead of -kami, as in 'ori gami'. Have you noticed? Nouns with unvoiced sounds can get voiced when the no…

初鴨 句集『中くらゐの町』を読む

田水張る黒目大きな鳥のゐて この句集に限らず、小動物を詠んだ句は取り合わせではない句が多い。この句は取り合わせ句だ。田んぼの支度を鳥は見ていただろうか。田の漲る水面と鳥の大きい黒目が微かにつながるような瑞々しさがある。 初鴨の油の抜けしやう…

能面は顔より小さしきりぎりす p.137

他の民俗芸能の仮面劇では、顔をおおい隠す大きさのものも多いですね。でもそれらはいかにも化けている、演じている印象を受けるものです。ところが役者のあごが見えていることで、能面は、演者の身体と一体化した印象を与えるのです。あごと首のラインの動…

青蛙廃墟の水に養はれ p.84

経済が好調なら、不要になった施設も取り壊したり転用したりできるのではないだろうか。ローマや中国の遺跡など立派な遺産になれば浮かばれるが、維持・整備する余裕がなければ、文化的価値があっても廃れてしまう。 どんな栄華も衰退を免れることはない。人…

『中くらゐの町』殺生をせぬ里芋のぬめりかな p.53

一読不思議な感じがした。人がではなく、里芋が殺生をしないような書き方だ。とりあえず、里芋料理では動物や魚を殺して肉を食べることをしないととる。殺生は特に仏教において強く戒められている一方、食べねば生きていけないので感謝しながらいただくとい…

『中くらゐの町』を読む

モノポリー蜆が砂を吐く間p.23 水、砂、泥ぐらいの違いはあれ、蜆には吐く句が少なくない。「蜆が砂を吐く」まで言ってしまえば、残りはわずか八字。この句ではそこに「モノポリー」を配したことで、他に類を見ない蜆句を演出している。 蜆漁で知られた地に…

岡田由季句集『中くらゐの町』を読む

句集『中くらゐの町』 月なき夜人数分のヨガマットp.10 湯たんぽに軸足置いて眠りをりp.14 雪もよひ公民館に湯を沸かすp.16 セーターの四人が揃ふリハーサルp.19 三笠山ほどの膨らみ夏布団p.32 マットは一人一枚なので、人数分のマットがあるのはヨガ教室の…