初鴨 句集『中くらゐの町』を読む

田水張る黒目大きな鳥のゐて

 この句集に限らず、小動物を詠んだ句は取り合わせではない句が多い。この句は取り合わせ句だ。田んぼの支度を鳥は見ていただろうか。田の漲る水面と鳥の大きい黒目が微かにつながるような瑞々しさがある。

初鴨の油の抜けしやうな顔

 鳥は大変な危険を冒して渡ると聞く。弱い鳥は脱落し、落命してしまう。長旅を終えた初鴨は油が抜けたように緊張を解くだろうか。安らぐ時間は長くないだろう。着いたら着いたで新生活が待っている。「力の抜けし」に近い解釈をとったが、単なる「力」では表せない可笑しみや味わいが「油」にはある。

 水鳥に会ふときいつも同じ靴

 理屈抜きに味わいたい。観察に通う経験から生まれて、観察だけでは到達しえない境地をみる。日常的な単語しか使っていないのに、聖性すら帯びているのではないだろうか。