松下カロ『白鳥句集』は全編白鳥尽くしの一冊。11章から成る。第2章のタイトルが「ウクライナ」であり、18句が収められている。
戦争に対して「否」という立場は前提として、それをどう表明するか包み込むか。反戦といった直接のメッセージから注意深く距離をとりながら、攻撃による自然や人間の被害の悲惨さを濃く描いたり、淡く描いたり。
「ウクライナ」の中には読み解けそうな句もある。
白鳥を憎む白鳥ウクライナ
青年が征き白鳥が哭く童話
微笑んで白鳥もまた自爆する
僧と兵立佇つ白鳥の両脇に
紅さしてやる息絶えし白鳥へ
白鳥の消失點にあかんばう
青年が征き白鳥が哭く童話
白鳥去りユーロ數枚落ちてをり
父母へ白鳥の羽散亂す
微笑んで白鳥もまた自爆する
僧と兵佇つ白鳥の両脇に
繃帯がほどけ白鳥ゐなくなる
白鳥へあまたの匙の曲りけり
爐心より白鳥ほどの煙立ち
白鳥はうごく歩道に乘つて來る
眼帶の内か白鳥爭ふは
抑止力白鳥の頸折るほどの
鳥歸る藁と帝國燃えやすし
パン裂けば俯く使徒も白鳥も
寝入るまで白鳥の頸握りしめ